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ものおきごや。
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「・・・わかった。それまでの間に・・・。」

久しぶりに会えたというのに。

ほぅとため息をつくと彼が持っている、遠くに居ても人を繋ぎとめることのできる文明の利器を睨んだ。
自分も、よくお世話になる。
簡単に誰とでも、どこででもおしゃべりができ、簡単に文章を作成して、送ることができる。
そうやって、お世話になるが・・・。

「こんな時にこなくったって。」

と、心の中で呟く。
きっと、今 酷い顔をしている。
嫉妬に歪んだ顔。
彼は丁度私に背中を向けていたので、この醜い顔を彼に見られる、ということはなさそうだった。
けれども、睨みを利かせたからといってこの異国の言葉を喋る機械が壊れることは無い。
私は俯いて、指で自分の唇をなぞると、触れられなかった優しい感触を触れてもらえたことにしようと思った。
ゆっくり、ゆっくりとなぞる。
その間もずっと彼は私に背中を向けて仕事の話をしていた。
なぞり終わって、顔を上げたと同時にかれもこちらを向く。

「ごめんな。用事ができた。」

「いえ、お気になさらずに。」

私は精一杯微笑むと、彼の帰る用意を手伝った。
彼は玄関まで歩いていく。
私はそれについていく。
彼の高級そうな鞄を持ちながら。
自然と鞄を持つ手が強まるのがわかる。
でも、自分ができるのは彼にいそいそとついて歩くだけだ。
玄関につくと、彼は座り込んで靴を履き替え始めた。
その後姿を見るたび、いつも「帰したく、ない。」とどす黒い気持ちが胸の中を回る。
ここで引き止めれればどれだけいいだろう
けれども、一生懸命押し込んだ。
今度、またいつ会えるかわからないのだから、笑顔で彼を送りたい。

「じゃあ、また今度な。」

「ええ。いってらっしゃい。」

そう言うと、私は彼に帽子を渡した。
彼はそれをそっけなく受け取り、深く被ると外へ出て行ってしまった。
きっと、うまく笑えていただろう。
何十回もしてきたことだから。

「・・・っ!」

私はその場に座り込んで泣いた。
2000年以上生きても、感じることのなかったこの痛み。
若い婦女子の間だけにしかないだろうと思っていたのに。

「まさか、私がこんな風になるなんて・・・。」

私は自嘲気味に呟くと、涙を着物の袖でふき取って立ち上がった。
それから、居間に戻ろうと、ふらふらと歩き始めると、ガラッと引き戸が開く音がした。
お客様だろうか?
そう思って、私が振り返るか振り返らないかのうちに、彼は私を後ろから抱きしめた。
いつも香っている薔薇の香りが私の鼻の中で咲く。
焦って喋ろうとして、喋ろうとも、喋ろうとも言葉にならない。

「菊。」

涙腺が緩む。
目の前が霞む。
もっと、もっと呼んで。
私の名前を。
私も呼び返しますから。

「アーサー・・・さん。」
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